サッシ窓の傷だらけのガラスなんとかしたい

mado_hikari

結婚して20年。一人息子も成人式を迎えた。当時はまだできちゃった婚なんて言葉も浸透していなかった頃だ。田舎にいる夫の両親も私の両親も結婚には大反対し、子供を堕ろせと迫られ、私はノイローゼになりかけた。だけど二人で結婚すると固く決め、子供を守り抜いた。もしあと数年、せめて安室ちゃんができちゃった婚をした後ならば、周囲の理解ももう少し違ったものになっていたのではないかと思う。だけど息子が産まれたら産まれたで、手のひらを返したように双方の両親とも「かわいい」と孫を溺愛していたので、あの私の気苦労は何だったのか…と切なくもなる。だけどあの時の逆境があったからこそ、夫との絆は強くなり、息子を愛おしいという気持ちも倍増したのかもしれない。

あの頃に比べ、すっかり安穏とした日々を送る我が家。息子はあの時の私たちの気苦労など知る由もなく、実家暮らしを満喫しながらも友達や彼女と自由気ままに過ごし、親へのいたわりなどすっかり皆無だ。

夫は夫で趣味のゴルフで週末は潰れてしまう。せめてもう一人子供がいたらまた違ったのかもしれないけれど、何故か私たち夫婦には二人目が授からなかった。あの時大反対した両親たちのうち3人は他界し、残る私の父も痴呆が見られる。趣味もなく、友達の少ない私が、毎日のように娘の顔を忘れた父の病院を訪れる毎日。ふと我が家の窓に目を向けると、そこにはいつの間にか傷だらけになったガラスがあった。この家を建てたころは、ピカピカだったはずなのに。家族3人、毎日笑顔で仲良く過ごしていたはずなのに、あの日々はどこへ行ってしまったのだろう。不覚にも涙がこぼれそうになり、私はぐっと堪えた。あの日々はもう帰らない。だけどまた新しい窓ガラスみたいにキラキラ輝く人生を選ぶことだってきっとできるはずだ。まずは傷だらけのガラスを交換しよう。濁ったような光を見つめながら、私はそう決めたのだった。